今回の記事はちょっとしたコラムです(^▽^)/
コラムでは、オペラの実態と言いますか、一般的にあまり知られていないことをご紹介したいと思います。
タイトルを見て、どういうこと?と思われた人もいると思いますが、実はオペラって「このオペラの、この役がやりたい!」と思っても、できないことがあります。
実際、私もそんなことがありました(^▽^;)
なぜこんなことがそもそも起こってしまうのか?
経験を踏まえて、やりたい役ができないパターンをご紹介します!
理由① やりたい役の声種が違う
これは最も多いパターンです(^▽^;)
オペラというものは、「セリフが全部歌になっている芝居」だと思っていただいて間違いありません。
…ということは、役によって歌われる音域(音の高さ)というものが違います。
おじさん役やお父さん役は、王子役や少年役より重く低い音域でオペラの楽譜には書かれることが多いです。
おばさん役は当然低い音域のことが多いですし、少女役は高い音域で書かれます。
そして、人間の声という楽器は、それぞれ少しずつ違っていて、よく響く音域が違います。
高い音域が出て、低い音域が鳴らない人は、女声ですとソプラノ、男声はテノールとなります。逆に、低い音域がよく鳴る方は、女声ならメゾ・ソプラノ、アルト、男声ならバリトン、バスとおおまかに分かれます。
仮に、アルトの声を持った方が「お姫様役がやりたい!」と思っても、そのお姫様役がソプラノの音域で書かれていたならば…
絶対にその役はできません!
本当に残念ですが…こればかりは無理なんです( ;∀;)
隠し芸的な出し物、一曲オペラのアリア歌いまーす!くらいでやる分には構いませんが、正式なオペラ公演の中でひとつの役を演じることはできません。
理由は、大きく二つあります。
ひとつは、声に負担をかけることになるから。
違う音域で書かれた作品を歌うことは、思っている以上にのどに負担をかけてしまい、歌手生命を縮めることになります。
ふたつめは、作曲者が意図した音色で演奏できないから。
もし仮に、ソプラノの音域で書かれた役を、違う声種の人が完璧に歌えたとしても、声の持つ響きの特徴というものがありまして、その特徴に合っていないと、配役してもらえません。
クラシックの世界は、言うならば「楽譜至上主義」の世界。
何百年も前の天才作曲家の求めた音楽というものを追求する「学問」であり、「アート」であり、「エンタメ」なのです。
作曲家が書いたことが、一番!楽譜が一番偉いんです。
音というものの性質上、実態が残らない芸術だから、手がかりが楽譜しかないのです。だからこそ、そこに重さが置かれているのかもしれません。
だから、昔の文献などから、作曲家が生きていた初演時に当時のオペラ歌手がどのような声の人で、どのように配役されたのかということを、大切に研究し尽くし、それを踏襲するのです。
その点、演劇はキャラクターが合っているとか、役柄と容姿のイメージが合っているとかで何でも演じられるから、羨ましいです。
ヴェルディ作曲のオペラ《椿姫》の初演の話を思い出したよ。笑
主役のヴィオレッタは、病気になってやせ細って最後は死ぬという内容。しかし、初演で主役を演じたオペラ歌手が、どう見ても死にそうにないほど太りきってつやつやしていて…それが原因で初演は大失敗したという都市伝説が残っているね。
理由② 声種が同じでも、声質が違う
これは、ソプラノとひとくくりにされていても、起こる問題です。
ソプラノの中でも軽い声の人は”ソプラノ・レッジェーロ”
リリックな声質の人は”リリコ・ソプラノ”
重い声の人は”ドラマティコ”
などと呼ばれます。他にもたくさんの声種に分類されます!
作曲家が「こうだ」といったことは守らなければいけませんし、作曲者が言わなかったことも楽譜を読み込んで「こうかな?」と研究されているのです。
例① 昔、受けたオーディション
わたしも、とあるオペラのオーディションへ行ったとき、審査員に言われたキッツーいひとことがあります。
君のような声の人がこの曲を楽々歌えても、何にも感動しない。この役は君の声には合っていないよ。分かってる?
もちろん、自分の先生と相談をしたうえで、「この役だと思う!」と思い、受けたオーディションだったのですが、審査員には全然違ったみたいでした(^▽^;)
(めちゃくちゃショックで、心が死にかけましたが、人によってもこの辺はかなり思い描く声というものは違っている部分だと思い、自分の音楽や自分という人間が否定されたわけではないので、気にする必要はないと思い、忘れることにしました。笑)
こんなところで、人によってもその役にあった声の理想は違ってきます。
そして、声はどんどん成熟していくものです。
20代で歌ってみて「君の声にはこの役は合わない」と言われても、40代では違った意見を言われるかもしれません。
自分の声を客観的にどのへんかということを、よく分かっておくことが重要かもしれません。
例② 友人の場合
私の友人は、日本人ではあまりいない、少し重めのリリックなソプラノです。
そういったソプラノは、お嬢様や伯爵夫人などの役柄が多いです。
そういった役柄は、当時の感覚からすると、「教育をきちんと受けた教養ある人」なのです。
教養=いつも優雅な立ち居振る舞いをする。決して取り乱したりしてはいけないと教育されている階級の人。
という役柄なので、走り回ったり、ちゃきちゃき素早く動いたりはしません。
しかし、私の友人はもともとせっかちな性格で、動きも歩きもすばしっこい。いつも早口で、どちらかというとお嬢様タイプではなく、村娘やおしゃべりな召使いタイプ。
持っているキャラクターとオペラであてられる声の性質が一致していないんです。笑
でも、オペラの世界では、音楽と楽譜に書かれていることが一番なので、友人は本来の性格的に合っているキャラクターの役である、村娘や召使いの役はやれません。
声に合っている役柄である、お嬢様や伯爵夫人に配役されます。
こういった場合は、自分の声に合った役の動きに、自分を合わせにいくしかありません。
例③ 50代のソプラノが娘役で、母親役は30代!?
実際にありうるシチュエーションで、字面だけ見ると笑えますが…
よくあります。笑
だいたい、ソプラノはお姫様や娘役など、オペラの主役となることが多いですが、メゾソプラノやアルトはソプラノよりも低い音域のため、母親役や乳母役、はたまた恋敵役などが多いです。
そして、主役を演じるには、かなりの技量が必要になったりしますから…成熟した声というのが求められるわけです。よって、主役のソプラノは成熟し脂の乗った声の50代ソプラノということはよくあります。
そして、日本にはメゾソプラノやアルトの声の方が極端に少ないです(体が小さいからか、はたまた痩せている人が多いからか?)。
母親役や乳母役などは、主役級ではなく端役も多いので、よく若手が当てられたりもします。
そうなると、年の差20以上の逆転親子なんてこともあります。
まとめ
オペラって、面白い世界ですよね(^▽^)/
ある役をオペラで演じるためには、第一の条件として、その役の歌う部分が無理なく歌える声を持っているということが、まずは必要になります。
そして、その役に合った、その役に求められている音色で歌えるのか?ということ。
そして、それからキャラクターに合っている容姿か、演技はできそうかなどは後からついてくる問題です。
あの人の演技がいいから!とかそんなことで抜擢されることは、ほとんどありません。
歌えてなんぼ、まずは音楽ありきの芸術ってわけです。
ですが、近年ではかなり容姿が重要視されるようになってきたことも否めません(^▽^;)皆さんイケメンだし、美しい人ばかり…モデルみたいに痩せてて顔も小さい…
技術に磨きをかけることはさることながら、美容にも気を付けなければいけないのです。
声が少女なら、いつまでも少女の役をやれます。笑
という、一般的に知られていないオペラの世界の常識コラムでした(^▽^)/
楽しんでいただけたら、嬉しいです~!